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函館地方裁判所 昭和25年(行)9号 判決

原告 堀新

被告 函館税務署長

一、主  文

被告(処分をした渡島税務署長の権限を承継したもの)が昭和二十五年二月十五日なした原告に対する昭和二十四年分の所得税確定更正決定が無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決および予備的請求として、主文第一項の請求が理由のないときは同項掲記の更正決定を取消す、との判決を求める旨申立て、その請求原因として次のとおり述べた。

原告は亀田郡銭亀沢村字高松において畑三町二反歩と乳牛一頭を所有し農業を営んでいるものであるが、昭和二十五年一月三十一日当時の所轄税務署長である渡島税務署長に対し昭和二十四年度の農業所有額金十二万三千九百六十円この所得税額金二万九千九百円と確定申告した。右所得算定の内訳は、畑作による収入が金十六万三千九百十円、乳牛による収入が金四万九千四百八十四円五十五銭となり、この収入から所得税法所定の必要経費として畑の耕作に要した諸費用として金四万九千九百五十円、乳牛の飼育費用として金三万九千四百八十四円五十五銭をそれぞれ控除すると畑作による所得は金十一万三千九百六十円、乳牛による所得は金一万円合計金十二万三千九百六十円となる。これが昭和二十四年度において原告が農業経営によつて収めた正しい所得である。然るに渡島税務署長は右申告に対し昭和二十五年二月十五日附をもつて原告の昭和二十四年度における所得金額を金二十三万六千六百五十円、この所得税額を金九万四千五百五十七円と更正する旨の決定をした。もつとも、原告は右決定の通知をうけなかつたためこのことは全然知る由もなかつたのであるが、同年四月二十六日同署長からこの税額の納付方督促を受けたので不審に思い、同税務署に問いただしたところ、係員から右のように更正決定されたことをきかされ、はじめてこれを知るに至つたものである。かようなわけで右更正決定は、原告に対する適法な通知を欠き無効なものといわなければならない。ところが同年六月一日大蔵省告示第六〇号により所轄税務署の管轄区域が変更され、亀田郡のうち銭亀沢村を含む五ケ村は渡島税務署の所管を離れて被告函館税務署長の所管となりその権限が受け継がれたので、原告は被告に対し右理由によつて本更正決定の無効なることの確認を求めるため本訴に及んだものである。

かように述べた。

なお予備的請求の原因として次のとおり述べた。

渡島税務署長が昭和二十四年度における原告の所得に関し前記のような更正決定をなしたことは、さきに述べたようないきさつから知つたもので、このような納税の督促が右更正決定の通知といいえないことはすでに述べたところであるが、仮りにそうでないとしても、右更正決定はかしある違法な行政処分というべきである。そこで原告はこれを不服としてその申立の決定期間内である同年五月十五日右渡島税務署長を経由し札幌国税局長に対し右更正決定に対する再審査の請求をなしたところ、同月二十二日右申立はその期間を経過したとの廉によりその受理を拒絶され、この請求書は返戻された。原告の昭和二十四年度における所得は確定申告書に記載したのが正当であつてこのことは、原告と同じ銭亀沢村字高松の同業者に対し渡島税務署長が同年度所得とし確定した金額、即ち、岩田タニ(金十二万四千五て円)、林長作(金十一万四千円)、吉村松三郎(金七万三千六百二十三円)、高橋沢次郎(金七万円)、高橋次郎平(金十四万五千円)、高坂定治(金十四万二千五百円)、中村熊蔵(金十五万円)、長倉長吉(金十二万九千八百円)、長倉仁八(金二十二万円)、長倉石太郎(金十五万千八百円)、杉本弥五郎(金十三万五千円)藤野森三郎(金十一万九千七百四円)、小野欣蔵(金七万五千五百円)、小野多一(金十万五千円)、小野権之烝(金十六万二千五百円)、佐藤嘉平(金三万七千六百四十円)、佐藤熊太郎(金七万九千八百七十円)、三浦芳太郎(金六万五千円)、下山清(金四万四百円)、真藤要助(金五万三千五百円)、猩々谷金一(金八万三千円)、佐々木忠次郎(金四万五千円)等の所得金額と対照しても明らかなところである。元来農業所得の課税に当つては、税務署長は少くとも一定数のその地方の農家について正確完全な実態調査を行つてその所得金額を把握し、その他の農家についてはこれを基準として所得金額を推定して賦課する手続を採らなければならないのに、渡島税務署長は何等その実態を調査することがなく、前記のとおり原告の所得につき更正決定をなしたもので、違法な行政処分というべきである。よつて原告は前記のとおり渡島税務署長からその権限を引き継いだ被告に対し右決定の取消を予備的に請求するものである。

被告の本案前の抗弁に対し、前記主張のとおり原告が渡島税務署長に対し本件更正決定を不服として再審査の請求をなしたのは、昭和二十五年五月十五日であるが、原告が右決定を知つたのは同年四月二十六日であるから法定の期間である一ケ月以内の請求に該当する。従つて右請求およびこれを前提とする本訴も適法なものである。

被告の本案に関する答弁事実はすべて否認する。渡島税務署長の認定した所得額算定の基礎は、耕作面積、収穫物の数量、価格、乳牛の搾乳量等いずれも実状と相違している。原告の耕作面積は前述のとおり三町二反歩である。その収穫物の価格も統制額のある物はその算定において比較的異同はない訳であるが、それでもなお例を馬鈴署にとつて見れば、渡島税務署長は一俵の単価を金四百十七円八十銭と算定しているが、食用割当供出の分は一俵金三百三十九円で、超過供出の分は金七百三十九円十三銭であるから、超過供出として出荷するものが多量に収穫されれば寧ろ被告主張の算定額よりも多額の収入となるものであるが、事実はその半分以上が不適格のものであり、これを澱粉加工用にしたり自家食用にする外はなかつたのであつて、これを販売するにしても価格は至つて低廉である。その収穫量について被告は反収二十八俵五分と主張しているが、前記のとおりこれに投入した経費の点からしてもこのような収穫はないのみでなく、原告は作付反別九反歩の中二反歩分は合格したが、その余の分は不合格品となり、合格分は二十三俵、不合格分は十五俵という実状である。また統制額のない作物殊に蔬菜のような物は、その時によつて著るしい価格の変動を生ずるものである。かようなわけで被告の主張は失当である、と述べた(立証省略)。

被告指定代理人は、主請求につき、原告の請求を棄却する、訴訟費用用は原告の負担とする、との判決をめ、予備的請求に対する本案前の抗弁として、原告の訴はこれを却下する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、その理由として行政処分の取消を求める訴を提起するには当時の所得税法(昭和二十二年三月三十一日法律第二十七号)第四十六条第一項、第五十一条、行政事件訴訟法特例第二条の規定により行政庁の審査の決定を経なければならないのに拘らず、原告は本件訴訟について更正決定に対する適法な審査請求なしていない。当時の管轄官庁たる渡島税務署長において本件更正決定をなしたのは昭和二十五年二月十五日であつて、この決定は遅くとも同月二十五日に原告に送達されたものである。してみればたとえ原告が同年五月十五日同署長に対し審査の請求書を提出した事実があるとしても右はすでに審査請求の法定期間である処分の通知を受けた日から一ケ月の期間を経過しているものであるから、法定の審査の請求をなしたことにならない。よつて本件取消の訴はその要件を欠缺し不適法なものである、と述べた。

予備的請求の本案について、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、主請求ならびに予備的請求に対する本案の答弁として次のとおり述べた。

原告の主張事実中、原告がその肩書地において畑(面積については争う)および乳牛一頭を有し農業を営むものであること、原告がその主張日時渡島税務署長に対しその主張のような確定申告をなしたこと、同署長が右申告に対し原告主張の日その主張のような所得税更正決定をなしたこと、原告主張の日時更正した所得税の納付方督促をなしたこと、原告からその主張の日時再審査の請求書が提出されたが、期間経過の廉により受理を拒絶し返戻したこと、原告の畑耕作の必要経費が金四万九千九百五十円であること、同署長において原告と同じ部落の岩田タニ外二十一名に対し昭和二十四年度確定所得額として原告主張の金額を認定したこと、管轄区域の変更により昭和二十五年六月一日をもつて当時の渡島税務署長の権限が被告において承継したことはいずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。

(一)  前記のとおり昭和二十五年二月十五日付の本件所得税更正決定は遅くも同月二十五日に原告に送達されたものである。元来税務署長において所得税更正決定をなすに際しては、先ず更正定決議書を作成し、これに基いて納税義務者に対し一連式の更正決定通知書ならびに納税告知書を発送する建前となつているが、その発送手続については、更決定通知書と決議書原本とを読み合せて照合した上原本に押印し、更に総務課発送係において両者を再度対照して押印した後、右決定通知書を発送簿に登載の上、普通郵便として差し出すという、極めて慎重な手続を採つているものである。そして普通郵便を発送した場合は郵便集配事務の確実迅速な現況からして間違なく名宛人に配達されることは公知の事実である。したがつて本件更正決定が原告に対し通知を欠きその効力がないことを前提とする原告の主請求は理由がない。

(二)  本件更正決定は正当な課税手続によつてなされたもので、その内容も適正妥当なものである。

渡島税務署長は原告から昭和二十四年度分の農業所得につき確定申告書(内訳表添付)が提出されたが、その所得金額およびその内訳が同署長がさきに調査したところのものより過少に評価申告されていたので、更に調査をした結果、これが所得金額を金二十三万六千六百五十円以上あるものと認められたので、原告の所得を右金額に増額して更正しその旨の通知とあわせて納税告知書を発したのである。しかも、右更正決定は次のように適正妥当な調査に基いて正しい所得額を認定したものである。すなわち、税務行政が国家の予算措置を前提とする以上その処分は公平かつ迅速に行うことが必要であつて、課税処分もこの例にもれず当該年度における所得をその年度の終つた後短期間のうちに確定し、当該会計年度の予算に照応させるとともに、次年度予算の準備を行うものなので、これが遂行は迅速を期さなければならないのである。他方このような処分は国民に負担をかけることなので、その担税能力を公正、妥当に認定することが必要なこととなる。かような見地から農業所得その他の事業所得については申告納税制度を採用し、国民の意思を尊重するとともに納税者のまじめな協力を所期するものである。しかしながら、人間は自己の負担をいくらかでも軽くしたいとの本能を通有しているものであるから、課税者においてもこれに対する方策を講ずる必要も生じてくるのである。これらのこれをあれこれ勘案すると、所得金額を認定するには各所得者毎に日々監視してその全収入をこと細かに確認するのが最も正確な方法ということができる。しかしこのようなことは今日の国家の状態では不可能なことなので、一つの点を拠り所にしてこれに基いてすべてを決するという方法を採らなければならなくなるのである。この点について税法は予定申告という制度を採用し、納税者に対しその所得金額が確定できる時期にこれを申告させ、税務署長はこれについて他の同種納税者と比較し或いはその集団についてなした公正妥当な統計又は調査資料に基き、この所得を相当と認めた場合には、他に当該年度中に異常な事態が発生しないかぎり、その年度についてなす確定申告をそのまま認めるという方法をとつている。したがつてこれが調査も公正妥当な方法によることが必要であるが、他方さきに述べたように迅速な処分をその前提とする以上、一般的な基準をたて、これに照応させてその所得を決するということが必要となつてくるのであつて、納税者の偽りのない自発的な申告に基く完全な協力が求められない今日、課税者にとつても、公正という見地から事を決せざるをえないのである。これら這般の要請に基きこの調査を公正妥当ならしめる方法には、同種事業者の事業に基く収穫の比較衡量およびその権衡、その生活内容の分類基準を定めることによつてこれが納税者に対する地位の確定、精密な統計その他の資料に基く課税標準率の確定およびこれに対する納税者本人の立場その他の実額調査、探聞調査、外形調査によるものがある。またこれにあわせて所得額が一応確定する見通しのついた時期に納税者に対し課税者の調査した結果を明らかにすると共に確定申告の指導を行うものである。本件の場合においても、渡島税務署長は、原告の所得について凡ゆる角度から検討を加え、確定申告書提出以前にその公正妥当な所得金額を算出し、確定申告に対してはその調査したところと異りかつ過少の所得額が申告されたので、更に調査して前記のように更正決定をなしたものである。

渡島税務署長は以上のような調査に基き次のように所得額を算定したものである。すなわち、本件の場合には、各収入部門について客観的な範囲に対する収穫についてその必要経費を控除するために標準率を定めた。その標準率をあてはめるにあたつては、本人が村役場、農業協同組合に申告した数字ならびに食糧事務所で調査した数字にあわせてさきに述べたような税務行政担当庁独自の調査方法を用い、本人には少くともこれだけの所得があるものと認められる範囲で決定するものであつて、実際の所得はすべて、これにより算出した数字を上廻るものであり、課税者にとつてはその所得のみとめられる最低限をねらつたものである。したがつて、これが標準率によつて算出された所得額に影響を及ぼすような事態の起らない以上納税者において課税者認定の所得額以下の所得しかないということはいいえないのである。原告の居住する銭亀沢村についての標準率は別表(一)のとおりである。

右のような基準にしたがつて渡島税務署長は原告の昭和二十四年度分の農業所得を金二十三万六千六百五十円以上と算定したのである。その内訳は次のとおりである(ただし原告の耕作面積は原告主張のように三町三反二畝でなく三町六反三畝であるが、原告主張の面積を基準にして計算した。なおこの畑は高松部落では最優秀のものである)。

(イ)  普通畑(雑穀)。原告の作付面積は一町一反二畝以上、反当収穫量七斗五升八合(被告は反当八石五斗というけれども総収穫の誤記とみられる)以上、その標準率は金千五百三十円以上、従つてその所得金は一万七千百三十六円以上である。この普通畑は、燕麦、とうきび、大豆、小豆、粟、稗等の作付による計算である。

(ロ)  馬鈴署。原告の作付面積は九反歩以上、反当収穫量二石二斗二升三合以上、その標準率は金八千八百九十二円以上、したがつてその所得は金八万二十八円以上である。

(ハ)  蔬菜。原告の作付面積六反五畝歩以上、標準率は自家用蔬菜の率にしたがい、計算しても、その所得は金十一万八千円以上である。主要なものはキヤベツである。

(ニ)  飼料畑(デントコン)。原告の作付面積四反歩以上、標準率金千六百二十五円以上、したがつてその所得は金六千五百円以上である。

(ホ)  搾乳所得。原告の所得金額は金一万五千円以上である。

(三)  仮りに、右の算定の基礎たる調査が不適正で内容が公正妥当を欠くものとしても、次に述べるように原告の実所得額は本件更正決定において算定した金額をはるかに上廻るものであるから、渡島税務署長が右のように更正したことは実質的に妥当なものである。すなわち、

(イ)  畑による総収入は、金三十七万五千七百七十六円七十銭(その内訳は別表(二)のとおりである)で、その必要経費金四万九千九百五十円を控除すると金三十二万五千八百二十六円七十銭となり、これが原告の畑耕作により収めた所得である。

(ロ)  搾乳による収入は金五万二千百九十四円十一銭となり、これからその必要経費として金九千八百八十一円四十九銭を控除すると、その所得は金四万二千三百十二円六十二銭となる。しかしこれは原告の搾乳所得の最低限であつて、この外原告は自家用として多量の牛乳を搾乳しているからである。

かようなわけで、前記更正決定にはかしがなく取消さるべき違法な廉がないから原告の予備的請求も理由がない。

以上いずれの点からするも原告の本訴請求は失当であるからこれに応ずることはできない。

かように述べた(立証省略)。

三、理  由

原告は亀田郡銭亀沢村字高松において畑および乳牛を所有し農業を営むものであるが、昭和二十五年一月三十一日当時の所轄渡島税務署長に対し、昭和二十四年度の農業所得を原告主張のような算定に基き、金十二万三千九百六十円、これが所得税額金二万九千九百円と確定申告したこと、同税務署長は右申告に対し同年二月十五日原告の所得金額を金二十三万六千六百五十円、所得税額を金九万四千五百五十七円と更正決定したことは、いずれも当事者間に争がない。

そこで、先ず、右更正決定の効力について考えるに、当時の所得税法(昭和二十二年法律第二十七号)第四十六条第一項によれば、納税義務者から農業その他の事業所得につき確定申告書の提出があつた場合は、政府(税務署長)は、その申告書に記載された所得金額若しくは所得税額がその調査したところと異なるときは、所得金額若しくは所得税額の更正をする旨規定しており、本件更正決定も同規定によつてなされたものであることは、本件弁論の全趣旨により明らかなところである。

しかも、政府(税務署長)が、右の規定によつて更正をなしたときは、これを納税義務者に通知(若しくは公告)しなければならないことになつている。このことは、同条第五項の明定するところであつてこの通知は、別表の規定のない以上(本件についてはない)、一般の原則にしたがい、納税義務者に到達することを要するものと解するのが相当である。

ところで、この更正という行政処分は、後記認定のように当該税務署長において更正決定決議書を作成し、これに基いて更正決定通知書を作成のうえこれを納税義務者に送達されることになつているところからみて、更正決定決議書の作成によつて処分庁の当該判断が表示されることになるから、これにより行政行為としての更正は完成し、通知は、ただこの事実を納税義務者に知らしめ、納税義務者に再審査や訴願などの不服申立をなす機会を与えるに過ぎないものであろうか、それとも裁判所のなす決定の告知のように処分そのものの効力発生要件と解すべきものであるか、聊か疑問の存するところであるが、仮りに前者のような見解によつても、更正決定決議書の作成に次ぐ通知行為がなされなければ、更正という一連の行政処分はその有効性を充足することができないものとみるのが法意に適つた解釈と思料せられる。したがつていずれの見解によるも更正にその通知を欠く場合は行政処分としてかしあるものというべく、しかもこのかしは重要にして明白なものであるから、当然無効なものといわなければならない。

では本件において、右の通知が果してなされたかどうかについて判断しよう。

証人井口秀一の証言によれば、当時渡島税務署長が更正決定をなした場合は、先ず当該納税義務者に対する更正決定決議書を作成し、これに基いて更正決定通知書を作成し両者の読み合せをなした上、更に発送係において再度両者を照合した後決議書原本にその旨押印し、納税告知書とともに発送簿に登載して普通郵便で差し出すという順序で発送手続を採つていたことが認められるし、成立に争のない乙第一号証の一、二および同第二号証の一ないし四によれば、昭和二十五年二月二十一日渡島税務署長から銭亀沢村居住の納税者に対し昭和二十四年度の農業所得確定申告に対する更正決定通知書が相当数一括発送され、原告と同じ部落に住む松田松蔵外三名は同月二十三日に同通知書を受領していることが認められる。したがつてこの事実から考えると原告に対しても右日時に更正決定通知書が発送されたとすれば、特別の事故のない限り右と同じ頃に送達されておつたであろうことは推知するにかたくないが、だからといつて、原告に対する本件更正決定の通知書が、発送されたことさえ確認するに足る証拠のない本件においては、右のような到達の推定をおしおよぼすわけにはいかないばかりでなく、寧ろ、成立に争のない甲第一号証の記載に証人堀緑の証言および原告本人尋問の結果を総合すれば、原告の妻堀緑が昭和二十五年四月二十六日頃渡島税務署長から「納税について」と題する葉書(甲第一号証)を受領したので、不審に思い同税務署係員に呈示し問い合せたところ、右は所得税更正決定に基く所得税の督促状である旨説明されて始めて本件更正決定のあつたことを知るに至つたものであつて、それまでに本件更正決定の通知を受けたことのなかつたことが認められる。この認定に牴触する証人千葉鯱男、同布施幸治、同瀬川照光の各証言は証人堀緑、同中村熊蔵(一、二回)、同鈴木勘蔵(一、二回)の各証言、原告本人尋問の結果に照し合わせて採用しがたく、他に右認定を覆えすに足る証拠はないし、また前認定の督促状の送達や係員の説明を目して前記所得税法第四十六条第五項に規定する通知に該当するものということはできない。

してみれば、渡島税務署長のなした本件更正決定は結局その通知を欠き無効のものといわなければならない。

その後同年六月一日大蔵省告示第六〇号により所轄税務署の管轄区域が変更され、亀田郡のうち銭亀沢村を含む五ケ村が渡島税務署長の所管を離れ被告の所管となり、その権限が承継されたことは同告示により明らかなことである。しかも、原告が本件更正決定の無効確認を求めるにつき即時確定の利益を有することは本件弁論の全趣旨に徴し明白であるから、その他の争点につき判断するまでもなく原告の本訴請求は正当である。よつてこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯島幾太郎 岡松行雄 小湊亥之助)

別表(一) 標準率

区分

階級

反当収入金額

反当必要経費合計

差引所得

収穫量

金額

普通畑

三、九〇〇円

一、六〇〇円

二、三〇〇円

三、二〇〇〃

一、四〇〇〃

一、八〇〇〃

二、七〇〇〃

一、二九〇〃

一、四一〇〃

馬鈴薯

四〇、〇俵

一六、〇〇〇〃

四、八〇〇〃

一一、二〇〇〃

二七、五〃

一一、一〇〇〃

三、八一〇〃

七、三〇〇〃

二二、〇〃

八、八〇〇〃

三、五五〇〃

五、二五〇〃

専業蔬菜

二七、〇〇〇〃

七、二〇〇〃

一九、八〇〇〃

自家用蔬菜

一八、九〇〇〃

四、九四〇〃

一三、九六〇〃

飼料畑

(デントコン)

<テ>三〇〇貫

二、七六〇〃

六六〇〃

二、〇九〇〃

<牧>二五〇〃

別表(二) 収入計算の内訳

作付反別

反収

収量

単価

収入金

馬鈴薯

九、〇反

二八、五俵

二五六、五俵

四一七円八〇銭

一〇七、一七五円七〇銭

トーキビ

三、五〃

六、〇〃

二一、〇〃

九二九円〇〇銭

一九、五〇九円〇〇銭

大豆

一、七〃

三、五〃

五、九〃

一、四一八円〇〇銭

八、三六六円〇〇銭

小豆

〇、五〃

二、五〃

一、二〃

一、二四六円〇〇銭

一、四九五円〇〇銭

一、〇〃

三、〇〃

三、〇〃

九二八円九〇銭

二、七八六円〇〇銭

五、〇〃

五、〇〃

二五、〇〃

四四二円六〇銭

一一、〇六五円〇〇銭

蔬菜

七、五〃

九〇〇貫

六、七五〇貫

三〇円〇〇銭

二〇二、五〇〇円〇〇銭

飼料畑

七、〇〃

六五〇〃

三、八五〇〃

五円〇〇銭

一九、二五〇円〇〇銭

燕麦

一、〇

五、〇俵

五、〇俵

七二六円〇〇銭

三、六三〇円〇〇銭

合計

三七五、七七六円七〇銭

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